― 定期演奏会の記録 ―
2011年4月10日(日)
午後2時 開演
森のホール21・大ホール
松戸混声合唱団第15回定期演奏会
■主催:松戸混声合唱団 ■共催:(財)松戸市文化振興財団
■後援:松戸市教育委員会/松戸市音楽協会/松戸市合唱連盟/千葉県合唱連盟
プログラム・曲目紹介
- Kyrie
- Panis vivus
- Verbum caro factum
- Hostia sancta
- Tremendum
- Dulcissimum convivium
- Viaticum
- Pignus
- Agnus Dei
- 旅立つ日
- 村の小径で
- 旅のよろこび
- なぎさ歩めば
- かごにのって
- 旅のあとに
- 行こうふたたび
ザルツブルク時代のモーツァルト
聖母マリアにキリストの復活を祝う音楽
レジナ・チェリ(天の女王) ハ長調 KV 276 (321b)
■モーツァルトはマンハイム・パリ旅行から帰郷(1779年1月)、早速ザルツブルク大司教にオルガン奏者就任の請願書を出した。「宮廷オルガン奏者として大聖堂や宮廷などの任務を果し、作品を提供することを条件に請願書が受理された」という記録文書がザルツブルク州立古文書館に保管されている。
■「レジナ・チェリ:天の女王」とは「聖母マリアに“キリストの復活”を祝う」祝賀音楽のことである。
■モーツァルト作曲の「レジナ・チェリ」は15歳と16歳当時作曲の2作品と23歳当時に作曲した《ハ長調 KV276(321b)》 (本日の演奏曲)など合わせて3作品がある。作曲の動機はその職務に無縁ではないだろう。
■マンハイム・パリ旅行は1年4か月半にわたる長期の旅であった。旅行中に「同伴した母親がパリ滞在中に病死」「パリでの就職活動の失敗」「マンハイムでは後に彼の妻となるコンスタンチェの姉との失恋」など人生に決定的な出来事を体験した。宮廷オルガン奏者就任した1779年内の作品には「戴冠式ミサ曲」「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」「主日のための晩課(ヴェスペレ)ハ長調」や本日の演奏曲『レジナ・チェリ ハ長調』など傑作が特に目だつ。それらの作品については職務の枠を超えた自在な発想による様式感が顕著にみられる。
■この『レジナ・チェリ ハ長調』マリア讃美の典礼文は次の4行詩句のテキストで構成されている。そのテキストを合唱とアンサンブルソロ(独唱群)が交互にAllegroテンポで
《♪Regina coeli laetare, alleluja, 天の女王、よろこび給え、アレルヤ》
《♪Quia quem meruisti potare, alleluja, その故はあなたの宿されし御方が、アレルヤ》
《♪Resurrexit sicut dixit, alleluja, 神の仰せし通り復活された、アレルヤ》
《♪Ora pro nobis Deum, alleluja. われらのために祈り給え、アレルヤ》
を通し演奏させ、更に改めてそれを反復演奏させる方法で、単一の楽章にまとめている。
■いっきに合唱が躍動感をもって歌い出す。アンサンブルソロが叙情的に、合唱と相互に豊かな連関を保ちながらマリア讃美詩句の歌を反復する。各詩句末尾に歌う《♪alleluja》(ヘブライ語で神を讃美する言葉)の反復は極めて象徴的であり、喜びが鼓舞した様を躍動的に表現している。高揚したマリア讃美の音楽といえよう。
主や聖母マリアへの讃美を唱える、連祷の音楽
聖体の祝日のためのリタニア 変ホ長調 KV 243
■モーツァルトのリタニア作品は『聖母マリアのためのリタニア』では15歳と18歳当時作曲の2作品、『聖体の祝日のためのリタニア』では16歳当時と20歳当時作曲の《変ホ長調 KV243》(本日の演奏曲)の2作品がある。
■「リタニア」とは司祭が〈主や聖母マリアへの讃美〉を先唱し、会衆が〈Miserere nobis:慈しみをわたしたちに〉と応唱し、それをを繰り返す祈りの形式のことで連祷ともいう。
■1776年3月、ザルツブルクで作曲した『聖体の祝日のためのリタニア 変ホ長調』KV243 は同年3月31日、ザルツブルク大聖堂で初演された。これはマンハイム・パリ旅行に出発する1年半前のことであった。
■この作品KV243はザルツブルク伝統のカンタータ−リタニア様式を維持し、ミサ典礼文から構成されるテキストを形式、テンポ、調、オーケストレーションについて、対比の法則でもって完璧なスタイルで対応させている。モーツァルトの作品のなかで、このKV243は最も個性的で最も独創的な作品であると評されている。
- I. Kyrie
- アンサンブルソロと合唱が《♪主よ憐れみたまえ》、《♪Miserere nobis:慈しみをわたしたちに》と悠揚なテンポで祈りの讃歌で応唱する。この“Miserere nobis”は以下楽章すべての詩文末に必ず唱えられる。
- II. Panis vivus
- 華やかにテノールのアリア《♪天より降りたまいし活けるパンよ》。冒頭主題の旋律が、15年後の未完作品「レクイエム」にある〈Tuba mirum〉の旋律の一部に酷似している。
- III. Verbum caro factum
- Largoテンポで《♪わたしたちの中に住む、肉となられたみことばよ》。荘厳な合唱。この楽章から V.Tremendum までは間をおかず連続して演奏するよう作曲されている。
- IV. Hostia sancta
- アンサンブルソロ《♪聖なるいけにえ祝福された杯》、そして合唱《♪いと高き敬うべき秘蹟よ》と応唱する。その旋律が後のヴェルディ〈鎮魂ミサ〉にみられる高揚した劇的な旋律を思わせる。
- V. Tremendum
- Adagioテンポで合唱《♪恐るべき活ける秘蹟よ》、重厚で苦悩に満ちた叫び。
- VI. Dulcissimum convivium
- ソプラノソロ敬虔なアリア《♪遣わされた天使たちが寄り添う》、attacca次楽章へ
- VII. Viaticum
- 合唱のソプラノ声部のみが《♪主において死に臨むもののかてよ》と歌う。透明な清らかな響きは聖堂に差込む光、宗教絵画に見られるような神秘的荘厳な光景を思わせる。
- VIII. Pignus
- 合唱 《♪未来の栄光の炬火よ》は全曲の頂点を形成する。技巧的な二重フーガが噴出する。この楽章はモーツァルトのザルツブルク対位法様式による最大傑作と評されている。
- IX. Agnus Dei
- ソプラノソロ《♪世の罪を除きたもう神の子羊》、変ホ長調に転じアンサンブルソロと合唱が厳粛に《♪Miserere nobis》を反復する。この楽章の演奏終結前の《♪Miserere nobis》は第1楽章「Kyrie」結尾で歌われた同部分が再現され、演奏が静かに終わる。
佐藤 眞先生をお迎えして
本日は、発足以来、歌い続けてきた宗教曲に加え、特別ゲストとして作曲家の佐藤眞先生をお迎えし、先生の作品を演奏します。
「旅」(1962年)は、合唱を聴くのが大好きな方も含め、およそ合唱を経験された方なら佐藤眞の名とともにご存じの方が多いと思います。
都会の機械工場での生活に疲れ、大きな憧れと希望を抱いて旅に出た若者は、ひとり大自然のなかを歩みながら久しく忘れていた自分の心を取り戻していきます。しかし、その見知らぬけわしい道の中で次第に進む方向を見失っていった若者は、疲れ果て、打ち砕かれて元の街に戻ってきます。そんなある日、いつもの工場の窓から見えた赤くもえたつ夕日が、ふたたび若者の心の記憶をいきいきと蘇えらせ、若者は明るい未来をひらくあたらしい旅へゆくことを決意します。親しみやすいメロディーと美しいハーモニーが、日本人として、なんとも言えぬノスタルジックな感じをいだく作品です。
今日は、通常はピアノ伴奏で歌われる作品を、佐藤先生の指揮で私たちの合唱団に合わせて編成したオリジナル・オーケストラ版で演奏します。
共に20代前半に作曲された「蔵王」「土の歌」の3作品は50年近い命脈を保ち、なお多くの合唱ファンを魅了し続けてきています。
1991年、都内合唱団の臨時団員で「蔵王」の3曲を演奏し、合唱祭の講師として「大地讃頌」を指導されたのが佐藤先生との出会いでした。
翌年、先生の指揮・令夫人のピアノによる「蔵王」を旧奏楽堂で演奏した際、直前に「蔵王」のオケ版を山形で発表されたことなどで話が弾み、歓談したことが機縁でしょうか。2000年には「土の歌」をやはり同団で演奏し、先生の指導をいただいた時「松戸でもオケ版をやりましょうよ」という会話を交わしたことを記憶しています。
その後、年に1〜2度は、コンクールの審査員としてのお立場や各種演奏会など、いろいろな場で先生とお会いする機会があり、そして偶然、一昨年10月の芸大オペラの休憩時間にお会いした時、定演の企画構想等を語ったところ、トントン拍子に話が進みました。
当団は創立以来、オーケストラで合唱の大曲を歌うことを活動の基本に置いてきたので宗教曲がメインでしたが、5年前から活動の幅を広げて2部構成の定演とし、オペラ、ミュージカル、オペレッタを取り上げ、今回、初めて邦人作品を演奏することになりました。思えば20年の長い旅を経て、実現した演奏会でもあります。
さあ、次の希望の20年に向かって、新たな旅立ちの日です。