― 定期演奏会の記録 ―
プログラム・曲目紹介
第1部
- 序奏(混沌の描写)とレチタティーヴォ:初めに神は天と地を創造された
(ラファエル/ウリエル) - アリアと合唱:今や聖なる光を前に(ウリエル)
- レチタティーヴォ:神は大空を造って(ラファエル)
- ソプラノ独唱と合唱:喜ばしき天の軍勢は(ガブリエル)
- レチタティーヴォ:神はまたいわれた「天の下の水は一つところに集まり」
(ラファエル) - アリア:泡立つ波とどろき(ラファエル)
- レチタティーヴォ:神はまたいわれた「地は青草と種を持つ華と」(ガブリエル)
- アリア:今や新たなる緑、野に萌え(ガブリエル)
- レチタティーヴォ:天の軍勢は第3日を告げ知らせ(ガブリエル)
- 合唱:弦をあわせよ
- レチタティーヴォ:神はいわれた「天の大空に光があって昼と夜とを分け」
(ウリエル) - レチタティーヴォ:今や輝きに満ちて(ウリエル)
- 合唱と三重奏:もろもろの天は神の栄光を現し(ガブリエル/ウリエル/ラファエル)
第2部
- レチタティーヴォ:神はいわれた「水は生き物の群れで満ち」(ガブリエル)
- アリア:力強さ羽ばたきもて(ガブリエル)
- レチタティーヴォ:神は大きな鯨と(ラファエル)
- レチタティーヴォ:天使たちは不滅の竪琴を奏し(ラファエル)
- 三重唱:若々しき緑に飾られ(ガブリエル/ウリエル/ラファエル)
- 合唱と三重唱:主はその御力によりて大いなり(ガブリエル/ウリエル/ラファエル)
- レチタティーヴォ:神はいわれた「地は生き物を種類にしたがって出だせ」
(ラファエル) - レチタティーヴォ:大地の内部を直ちに開いて(ラファエル)
- アリア:今や天は栄光に輝き(ラファエル)
- レチタティーヴォ:神は自分のかたちに似せて人を創造された(ウリエル)
- アリア:威厳と気高さを身につけ(ウリエル)
- レチタティーヴォ:神は造ったすべてのものを見られたところ(ラファエル)
- 合唱:大いなる御業は成りぬ
- 三重唱:おお主よ、万物は御身を待ち望み(ガブリエル/ウリエル/ラファエル)
- 合唱:大いなる御業は成りぬ
第3部
- レチタティーヴォ:バラ色の雲が砕け(ウリエル)
- 二重唱と合唱:おお、主なる神よ、天地は御身の御恵みに満てり(イヴ/アダム)
- レチタティーヴォ:われら創造者に感謝を捧げ(アダム/イヴ)
- 二重唱:やさしき妻よ、汝の傍らにあらば(アダム/イヴ)
- レチタティーヴォ:おお、幸福な夫婦よ、いつまでも幸福であれ(ウリエル)
- 合唱と独唱:すべての声よ、主に向かいて歌え
ハイドンとオラトリオ「天地創造」
ハイドンを称える言葉の数々、“パパ・ハイドン”“交響曲の父…”“弦楽四重奏曲の開拓者”“古典派音楽の確立者”が表している通り、ハイドンは600曲にのぼる作品によって、当時のほとんどあらゆる音楽を手がけた総合的な作曲家でした。
実際、ハイドンの作品の統一的な番号として用いられているホーボーケン編纂の作品目録では、彼の作品はじつに32ものジャンルに分類されています。その中でも、「天地創造」と「四季」は、19世紀のハイドン研究家ポールが「ハイドンのすべての創作の頂点は正に『天地創造』と四季』の二大オラトリオにある」と絶賛したように、ハイドン音楽の総決算と言えるでしょう。
ハイドンが「天地創造」の作曲を思い立ったのは、ロンドン滞在中(1791年〜1795年)、ヘンデル音楽祭で英語オラトリオに刺激を受けたためと言われています。
1795年、ハイドンがイギリスからウィーンに持ち帰った「天地創造」の英語台本(リドレーというイギリス人によって書かれたといわれているが、原本は不明。また彼の存在自体も資料的に跡づけがなく、現在は作者不明の幻の台本となっている。)をもとに、ドイツ語の台本を作成したのは、ゴットフリート・ヴァン・スヴィーテン。
この人物は、私的な演奏会を開くために貴族を集めて「音楽協会」をつくるなど、パトロンとして有名で、また外交官としての経歴から、広く国際的な音楽知識の持ち主でもありました。そのため、ドイツ語の台本には作曲に必要な細かい指示までも書き込み、またハイドンもそれぞれの曲を書き上げると彼の意見を求めていたようです。
いずれにしても、1798年、2年間にわたって推敲を重ねて完成された「天地創造」は、空前の成功をおさめ、多数の合唱団設立のきっかけとなると同時に、オラトリオのさらなる育成を促すことになりました。
全体の構成は3部から成り(それまでは一般に2部構成でした)、第1部で大地と植物の創造、第2部で動物と人間の創造、第3部ではアダムとイヴの楽園における幸せな生活と神への感謝の歌が歌われます。この作品の最も大きな特色は、音楽が歌詞の内容に従って極めて自然に作られているという点にあります。なかでも絵画的表現ともいうべき描写的手法が存分に用いられています。
歌詞の内容に沿って、自然界の実際の音を楽器で模倣したり、音型、リズム、テンポなど、運動の連想によって視覚的な情景を音楽で暗示したり、調性のコントラストやデュナーミクの効果的な扱いなど、あらゆる音楽的手法を用いて情景描写が行われています。
例えば、当時、神を称える調性として好んで用いられたハ長調を中心に書かれていますが、アダムとイヴの登場する第3部では、誠実さと清らかな愛を表現すると当時考えられていたフラット系の長調が好んで用いられています。
また天国と純潔さを表すためにフルートが、神の栄光を表すためにトランペットとティンパニが用いられています。
19世紀のロマン派においては、音楽は文学と密接に結びついて発展してきます。その意味で、このように歌詞を忠実に再現した「天地創造」は、ハイドンがロマン派の先駆けとなったことを示す作品であると言えるでしょう。